遅れましたが、提督さんからのリクエストがあり、WWⅠの魅力から、それについての書籍に触れてみます。
まず、提督さんの読んだ本を確認しますとね。
『第一次世界大戦』『戦略論』リデルハート
『補給戦』クレヴェルト
『八月の砲声』バーバラタックマン
『ガリポリ戦記 』
歴史群像ムック『第一次世界大戦』
『西部戦線異常なし』
『ルーマニア日記』
コマンドの記事多数。
以上ですから、WWⅠの基礎だけでなく、軍マニアとしても十分な知識はあるでしょう。
そこでここではちょっと角度を変えてWWⅠを眺めてみましょう。
私がWWⅠで一番興味深いのが、以下の3点になります。
*ハスプブルグの煌き
*戦争の変質
*大戦の後始末
*ハスプブルグの煌き
19世紀までの外交の中心だったのが、オーストリアのウィーンでした。それはナポレオン戦争の後始末が、ウィーンでの会議で片付けられた事でも裏付けられるでしょう。
会議自体は各国の思惑が交差し、「会議は踊る、されど進まず」が表すように、なかなか纏まりませんでした。それでも列強国がひしめくヨーロッパに、100年近く大きな戦争を齎さなかっただけでも、この会議が有効に機能していたのが見て取れます。
この会議を主導していたのが、オーストリアのハスプブルグ家でした。
このハスプブルグ家は、現在もヨーロッパの名家として度々耳にする機会があります。
ハスプブルグ家は戦争というよりも、婚姻と外交により領土を広げた一族です。
有名なのはマリア・テレジアで、10人以上の子供を産んで、その子供たちが各国の王族へ嫁いで行って。ハスプブルグの安定に寄与したのです。戦争もしたんですけどね、良く負けて。フリードリッヒ大王やナポレオンの引き立て役になんですよねぇ。
長期間に亘ってヨーロッパに君臨していたハスプブルグ家も、19世紀末になると悲劇が続き、そしてWWⅠが決め手になり帝国は解体されてします。
その雰囲気を良く表した書籍がこちら。
塚本哲也『エリザベート』
著者は外交官で主人公のエリザベートが死去する際に、オーストリアへ赴任しており、隠し財産が発掘されるのに立ち会っています。さすがに外交官だけあって、外交の表現が素晴らしく、20世紀初頭のヨーロッパの緊張状態から、WWⅠへ雪崩れ込む状況が、見事に描かれています。軍マニアが手に取りやすい書籍では、この辺りが今一つ分かり難いんですよね。でも、知れば知るほど、この頃のヨーロッパは混沌としていて興味をそそられます。
さて、本書の主人公はエリザベート、英語読みすればエリザベス。
実は、美貌で有名なのは、フランツ・ヨーゼフの皇后エリザベート。この主人公・エリザベートはその孫。分かりやすく、お祖母さんをエリザベート皇后とし、孫をエリザベート皇女とします。
写真右がエリザベート皇后で、左がエリザベート皇女。
写真をみるとエリザベート皇后の方が綺麗ですね。エリザベート皇女の写真は若い頃のものなので、若干幼いように見えます。本書には30歳くらいのエリザベート皇女の写真があり、それが綺麗!
Webで探しましたが、その写真は見付けられませんでした。是非、本書で確認してください。エリザベート皇后が身長168cm、ウェスト50cm(!)。エリザベート皇女が身長180cmで9頭身。二人とも、どこのモデルだよ!
余談ですが、エリザベート皇后は現在でも大人気。
悲劇的な人生と伝説的な美貌で、ミュージカルの題材になっています。
ウチのヅカファンである奥さんがですね。
10年近く前に、宝塚で初公演した際のビデオを買ってですね。当時エンドレスで流しておったですよ。
すると、フランツ・ヨーゼフとか出てくるから、WWⅠ好きの私もΣ(゚Д゚;)となりまして。マジマジと見直したモンでした。
*戦争の変質
おそらく、このBrogを眺めている方は、2年に亘って放送されたNHKドラマ『坂の上の雲』をご覧になっていますね。良く出来たドラマで、私も久々にちゃんとテレビを見ましたよ。最近のテレビ放送については、文句しか出て来なかったですからね。
さて、『坂の上の雲』ですが、「おかしいなぁ?」、と思いませんでした?
大きな流れは合っていますし、多少の演出はあって当然とも思います。でも、ちょっと気になるところがあるので、挙げてみます。
旅順攻防戦で鉄条網を鋏で切っていて、「ああ、痛そうだなぁ」と思いましたね。でも、あれは違います。
だって、戦場の鉄条網は切られちゃマズイから、親指の太さくらいあったのです。だから、人力では無理で爆薬で吹き飛ばすしかなかった。まあ細かいところですが。
実は、それよりももっと違うところがあります。
同じく旅順攻防戦ですが、日本兵の皆さんは一生懸命に走ってましたね。でも、あんなに走れるものではないんですよ。だって、最低20kgの装備は背負ってるものなのです。確かに、最後の100mや200mは走るでしょう。いや、大マケにマケとしても、500mは頑張って走ったでしょう。
でもですよ。
守る側としては、それ以上から射撃できなければ困る。だって当たらないんだもん。だから、1000mは遮蔽物のないところを前進させるように工夫する。要塞ですからね。
で、実際どうだったかと言えば、攻撃側は歩いていた。間違いなく旅順の第一次総攻撃では。しかも、ナポレオン時代の戦術しか頭に無かったから、綺麗な横隊を組んで。
まあ、こちらの動画を見てください。
VIDEO
これは南北戦争で行われたピケット突撃です。
はい、皆さん大きな声で。
「マーチじゃねえよヽ(`Д´)ノ!」
ナポレオン時代と南北戦争、それに日露戦争は、50年ずつの年数が離れています。その間に兵器で変わったのは、南北戦争で砲弾が爆発するようになり、小銃の性能が上がった。連射が利くようになり、ライフリングが開発されたんですね。
要は、火力が段違いに上がった、と。
ですから、南北戦争の頃から、攻撃は大損害を出して失敗するようになる。それに産業革命による生産力の向上と、鉄道網の整備により、大量の兵士を戦場へ送り込む事が出来るようになった。そのため南北戦争から戦争は大きく形態を変えていたのです。
そのため南北戦争とWWⅠは非常に似たような経過を辿ります。
そんな貴方にお勧めがこちら。
学研M 文庫『南北戦争―49 の作戦図で読む詳細戦記』
この著者は元々アメリカ軍兵学校。いわゆるアナポリスで歴史を教えてきた。その教材として書かれたのが本書になります。その内容が面白いからと、一般にも出版されるようになり、日本でも刊行されたのでした。
ただ、面白いのですが絶版で入手困難なんですよね。
プレミアムが付いていて3倍近くなっています。残念。
私が南北戦争で興味深いのが、アメリカの将軍が人間的である事。
無理な突撃をして、味方に大損害が出てしまったら、それを生涯悔いる、とか。南軍に兵力が足りなくなり、少年兵を動員。指揮官が「子供たちに攻撃させろ」と命令しつつ。「神よこの命令をお許しください」と、その場で懺悔したとか。
太平洋戦争時代の日本の指揮官に聞かせてやりたいよヽ(`Д´)ノ!
さて、南北戦争とWWⅠでは結末に大きな差異があります。それは是非本書で確認ください。
長きに亘ったWWⅠでしたが、遂に塹壕戦を打破する術を開発されます。それが浸透戦術で、WWⅡでの電撃戦へと昇華されるのです。
*大戦の後始末
「大戦の後始末」と言いつつ、どのような本を薦めればいいか、私には分からない。
意外と面白いのが、NHK高校講座。
カワイイ女の子に、本物の先生が登場し、その時代を解説して行くのです。それくらいの事なら、もっと詳しい書籍がある、とは言えますよ。
ただ、僅か30分の時間で高校生に分かるように、それでいてテンポ良く映像もふんだんに使い、意外な見方を提示しているのは貴重です。何せ、加藤陽子女史まで登場するんだぜ。しかもちょい役で。
WWⅠ~WWⅡの戦間期では、ドイツだけに焦点を当てて。ベルサイユ条約による賠償金から、海外投資による景気回復。そして世界恐慌、と。それらでドイツ国民が大混乱に陥る。それらがホンの僅かな切っ掛けで混乱から、それからの脱却。それが30分で分かるのですから。
そこで去年見たのが、戦間期に於けるドイツの混乱。
まずは、賠償金によるインフレで紙幣価値が大暴落する。その後は海外からの投資により、急激に経済的は回復する。こう言った経済の乱高下が起きると、無一文とスーパーお金持ちだけになる。
何故なら、インフレによる不景気では紙幣価値が無くなり、まずは貯金が0になる。それから仕事も無くなるので僅かに残っていた資産も手放す事となる。これで中間層が壊滅する。
しかし大金持ちは、他国へ資産を避難させられる。というより、目先の利いた資産家は他の国でも商売をやっているので、被害は少ない。そして自国の貨幣が安いので、輸出により利益を確保できる。その利潤で中間層が泣く泣く手放した不動産を買い叩く、と。
そして海外からの投資により、ようやく経済が立ち直り、民衆にもそのオコボレが回って来る頃に、世界恐慌が起きる。海外からの投資が一斉に引き上げたため、またもや経済が大混乱する。これが1930年までの状況。
政治的に面白いのが、右翼のナチスと共に、左翼の社会主義も支持を伸ばしていたこと。中道政権は経済的な混乱に有効な手段を持たなかったので、支持を失い続け。遂に、ヒトラーの登場となるのです。
これが30分で解説できるなんて、凄くない?
平日の午後に、会社を休んだ際には、ちょっと気にしてくだされ。
戦間期のトルコにしろフィンランドにしろ、カッコイイのですが、勧められる書物の知識はありません。
ちなみにですね。
絶版の書籍でも、近隣の図書館で頼めば、何とかなります。今はネットで全国的な在庫を確認できるので、その図書館になくても取り寄せてくれるのです。
それに意外な書籍が入っていたりするので、近所の図書館は侮れません。
何せ、私の地元では…
『ヒトラー・ユーゲントーSS第12戦車師団史』
なども発見でき「オレのために入れたのか!」と思った次第です。
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